人が皆同じ人生を歩むわけではないように、認知症の方達も皆同じ経過を辿るわけではありません。
薬が必要な方もいれば不要な方もいますし、中には薬で病状が悪化してしまう方もいます。
当院ではこれまでに、約3600件の認知症に関わるご相談を受けてきました(2024年11月現在)。
その経験は院長ブログにまとめられていますので、よろしければご覧になってください。
皆様からよく頂く質問を、質問に対する回答と共に以下にまとめてみました。
Q.認知症とは、どんな病気ですか?
A.脳に蓄積した有害なたんぱく質が脳細胞を変性させた結果、物事を判断、理解、記憶し、実行する力が年齢不相応に衰え、日常生活の様々な場面で誰かの力を借りる必要がでてきた状態のことを、認知症と呼びます。
認知症になる最大のリスク要因は、加齢です。
95歳以上にもなると、約80%の方が認知症になっていると考えられていますが、これはつまり、年を重ねることで誰しもが認知症への道を歩んでいくということに他なりません。
短期記憶だけが衰えた状態のことを、認知症とは呼びません。
認知症とは、短期記憶の低下以外にも、日時や時間感覚の低下、場所や人物の認識低下、道具の操作が困難になる、段取りが悪くなるなど、複数の症状が連なっている「症候群」だとご理解ください。
日本人男性の平均寿命は約81歳、女性は約87歳です。80代に入って衰えが見えてきた場合、それを認知症だけで説明するよりも、相当程度年齢の影響も混ざっていると考えた方が良いと思います。
Q.認知症には、どのような種類がありますか?
A.最も有名な認知症はアルツハイマー型認知症だと思いますが、他にはレビー小体型認知症(認知変動・幻視・パーキンソン症状・レム睡眠行動異常などの症状が特徴)、前頭側頭型認知症(言語の意味理解低下・社会性の低下・同じ行動を繰り返す、といった症状が早期に出現する)、 脳血管性認知症(脳出血や脳梗塞などが原因で脳機能が低下する認知症)などがあります。
慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症などの疾患は、手術で症状の改善が見込めるため、「治りうる認知症」と呼ばれています。
Q.認知症の進行を、治療で遅らせることは可能ですか?
A.「遅らせることが出来れば・・・」と願って様々な工夫をご提案していますが、確実は方法はありません。
「抗認知症薬」と呼ばれる薬が進行を遅らせることが出来る、とされていますが、厳密な意味で遅らせられているかを検証することは不可能です(同じ人を2人揃えて比較することは出来ないから)。ただし、抗認知症薬で意欲や活気が上がった場合は、効いていると考えて良いと思います。むやみに量は増やさずに、慎重に継続しましょう。
Q.認知症の確定診断をして欲しいです。
A.脳の組織を広範囲に採取して顕微鏡で調べることが出来れば、病理学的確定診断が可能となります。
しかし、それは生存中は出来ないことですので、実際には普段の症状から認知症の病型を推測して診断しています。認知症外来では通常、頭部MRIや頭部CTなどを受けて頂きますが、これらはあくまでも補助的な検査であり、「MRIを撮れば確定診断が出来る!」というものではありません。
レビー小体型認知症など一部の認知症では、MIBG心筋シンチやDAT-scanなどの検査で約80%の確率で診断に迫ることが可能とされています。
ただし100%ではありませんし、また、アルツハイマー型認知症にレビー小体型認知症が合併するなど、複数の認知症疾患が病理学的に重なり合っていることは稀ではありません。
当院では「確定診断」に拘りすぎることなく、アルツハイマーらしさ、レビーらしさなど、個々の認知症疾患の症状に応じて対応するよう努めています。
なお、近年は脳脊髄液検査や脳アミロイドPETなどで初期のアルツハイマー型認知症の診断を確定させ、点滴の抗アルツハイマー薬を用いて治療が行われるようになりつつあります。
当院ではこれらの検査や点滴治療は行えませんので、ご希望の方は鹿児島市内であれば厚地脳神経外科病院や伊敷病院などにご相談下さい。(2024年11月現在、ホームページにて確認)。
Q.最近、点滴の抗アルツハイマー薬が出たと聞きました。期待出来ますか?
A.2023年にレカネマブ、2024年にはドナネマブという点滴の抗アルツハイマー薬が認可されました。
製薬会社は、「約1年半の間、認知症の進行を20~30%程度抑制することが出来た」と報告しています。
これは、点滴を受けた人は進行しなかったということではありません。点滴を受けても全員進行するのですが、進行の程度(≒認知機能テストにおける点数低下の程度)が20~30%程度緩やかになったという意味です。
微量な脳出血や脳浮腫などの副作用発現率は高く、また、点滴を受けている御本人やそのご家族が治療効果を実感出来ることは恐らくないと思います。
費用対効果のことや副作用のことなどを総合的に勘案すると、個人的意見ですが、期待出来ないと考えています。
Q.認知症は治りますか?
A.脳は特別な臓器です。成長に伴い脳細胞の数は増え、20歳頃がピークとされています。以降は少しずつ脳細胞の数は減少していきますが、過度のアルコール摂取や頻繁な頭部打撲があると、その都度脳細胞の数は減少します、失われた脳細胞が復活することはありません。そうして脳細胞は徐々に減少していき、加齢や有害たんぱくの蓄積がそれに拍車を掛けます。
つまり、怪我が治ることと同じような意味で、認知症が治るということはありません。
Q.家族が認知症と診断されました。患者本人に対して、どのように接すればよいですか?
A.まずは、ご家族が今の生活の中で①無理なく出来ること、②誰かの協力があれば出来ること、③頑張っても難しいこと、を洗い出してみましょう。
無理なく出来ることは、そのまま続けてもらいます。協力があれば出来ることは是非、一緒に取り組んでください。頑張っても難しいことは、ご家族がそっと引き受けてあげましょう。
失敗をその都度指摘し、責めたり𠮟ったりするのは逆効果です。それで事態が改善に向かうことはまずありませんし、むしろ悪化することの方が多いです。また、「自分が認知症だということを自覚して欲しい」と望むご家族は多いですが、人間誰しも「自分は大丈夫」と自己肯定したい気持ちを持っていますので、病気の自覚を患者本人に押しつけても反感を買うだけです。
後天的に身につけた様々な能力を手放していくのが認知症です。
子どもであれば、失敗を指摘し修正させることで成長に繋がる可能性はありますが、一度獲得した能力を手放していく認知症の人に「なんで失敗するんだ、同じ事を何度も言わせるな、学べ」と言うのは酷な話ではないでしょうか。
「では、家族は黙ってひたすら我慢すればいいのですか?」と訊かれますが、そうではありません。一定の我慢が求められることは確かにそうなのですが、相手に配慮した適切な対応法はあります。そして、その方法は訓練次第で一定程度身につけることが出来ます。
その方法を紹介している書籍は多数ありますが、「マンガ 認知症」という本がよくまとめられていて理解しやすいので、お勧めします。
認知症当事者の樋口直美さんが書かれた「誤作動する脳」も併せてお読みください。傑出した当事者本です。
Q.介護保険は申請した方がいいですか?
A.今すでに支援が必要になっている状況であれば、自治体窓口や地域包括支援センターを通じて申請しましょう。
自宅以外の場所で楽しく過ごせるようになると、御本人にとっては脳への好ましい刺激となり、ご家族にとっては一息つける時間を確保できることになるため、可能であればデイサービスの利用をご検討下さい。その際の誘い文句は、健康教室、体操教室、大人の学校などが望ましいと思います。「みんな行っているから!」と無理強いすることは避けて下さい。
どうしてもデイサービス利用が難しいようであれば、ケアマネージャーと相談して訪問サービスの利用をご検討下さい。家族以外との他者との交流が、前頭葉を刺激して社会性を維持することに繋がります。
Q.だいぶ衰えてきて、自宅生活が困難になってきました。施設入所について教えて下さい。
A.まず、個々のご家庭で事情は様々ですので、これといった正解はありません。
介護保険サービスを利用し、訪問看護や訪問診療を利用しながら、ご自宅で最期を迎える方はおられますが、全員そうすべきということはありません。サービスの支援があってもなお、介護でご家族が疲弊し続けている場合は、施設入所を検討されたらよろしいかと思います。
家族が直接見守る介護から、プロに見守られる介護に移行する、という風にお考え下さい。
経験上、ご家族が施設入所を検討されるのは、家族を家族と認識出来なくなってきた時、排泄の後始末に追われるようになった時、が多いようです。
認知症と既に診断されている方は、グループホームをご検討下さい。他にも特別養護老人ホームや介護老人保健施設、サービス付き高齢者住宅などありますが、入所に際しての要件がそれぞれ異なりますので、担当ケアマネージャーに相談してみましょう。
ひらやま脳神経外科の診療方針
当院では、「認知症は中核症状よりも周辺症状対策が重要(右図を参照)」という考えの元、薬物療法、サプリメントの工夫、声かけの工夫などをご提案しています。
まずは、現状を把握した上で、どのように支えていくかを考えていきましょう。
気づき、そして、変わる。
相手を、ではなく、自分を変える。
自分を変え、自分の人生に折り合いをつけながら、毎日を丁寧に生きていく。
そのためのお手伝いが出来れば、と考えています。
物忘れ外来受診をご希望の方は、以下のページで受診の概要を把握頂いた上で、お電話にてご予約をお願いします。